アニメ制作者の低賃金問題

アニメ業界に関係のないオイラが、なぜアニメ業界の為に動く事になったのか。その1

 

今年の夏のある日の事である。オイラはいつものように中野にあるBarで、ある青年A君に会った。以前にも会った事があり、アニメ業界で働いているのは知っていたが、何をやっているのかも知らず、きっと毎日絵でも描いているのだろうと思っていた。

久しぶりだと話しかけると、お盆で少し休みが取れたからと、久しぶりの酒を楽しみ来たと言う。

 

忙しいの?と聞いてみたら、彼は信じられない話を語り始めた。

 

彼は制作進行というポジションで、絵を描くアニメーターではなかいよいよオイラもたまらずに声を荒げてしまった。1作品の1話分の制作スケジュールを管理する仕事だと言う。

朝10時に始業し、車でアニメーターの描いた絵を回収して回ったり、作画監督の家に配達したりする。昼過ぎに帰社すると、進捗状況の確認と報告会議や編集素材のチェック、支払い伝票の整理などをする。夜になると、まとめておいた作画を監督に渡してチェックを受ける。再び車で絵の回収と配達。そしてなぜか撮影所が深夜から開くので撮影立会い。撮影が終わる頃には空が白み始め、1日の作業を報告書にまとめ、帰宅すると31時になるという。

 

俺「まて、31時って何時だ?」

とオイラはたまらず聞いた。

A「朝7時ですね」

俺「それでまた10時に出勤なのか」

A「はい、だから会社に泊まる事もあります」 

 

一日、16〜20時間労働。1話のアニメを作るのに3ヶ月かかるのだそうだが、終わりの1ヶ月は特に忙しくなるのだという。月に3日休めたらいい方なのだそうだ。

 

俺「それで給料は?」

A「月13万円です」

俺「13…!」

絶句した。

A「5年間昇給、残業代なし。社会保障もつかないです」

俺「え?社員じゃないの?」

A「業務委託契約だから個人事業主扱い。だから確定申告も自分でやらなきゃいけないです」

俺「でも、出勤時間があるんだから、それ、社員でしょ。でも、作品が当たればボーナス出たりするでしょ」

A「関係ないですね。もらった事ないです。当たったらプロデューサーが焼肉おごってくれるくらい。」

俺「契約だから契約更新時に、昇給の交渉とかできないのか?」

彼は過去、制作プロデューサーに言ってみたらしいが「その給料でやるおまえの代わりは他にいくらでもいるぞ」とか「今回は製作委員会に買い叩かれてるからウチも厳しいんだ」とか「エンドロールに名前出してやってるんだからそれでいいだろ?」と言われて、まともに取り合わない。先輩たちも「俺たちはそれでやって来たんだ」と言われて役に立たない。

 

オイラは聞いてみた。

俺「エンドロールに名前出たら何かいい事あるのか?次の仕事が決まり易いとか、名前見て他の作品の仕事に呼ばれるとか」

A「ないですね。名誉です。流石に初めて名前載った時は嬉しかったですよ!実家のお母さんに電話しました。あと田舎の友達。思わず長電話して、翌月の電話代が大変でしたけど(笑)でも、給料は上がらないです」

俺「じゃあ、エンドロールに名前載せなくてもいいじゃん。載せなかったらいくらくれるんだよ」

A「そうですよね(笑) でも、僕は13万円貰えてるから、業界ではまだいい方です。」

俺「はぁ!?」

 

アニメというのは、一枚ずつの絵の連続で、その絵を動画マンが輪郭線を描き、仕上げが彩色するのだとか。その動画マンは時給ではなく、1枚200円で絵を描くのだと言う。1時間で2枚描けたらいい方だ。2枚描いて時給400円。

動画マンは月10万円以下の給料だと言うのだ。

 

俺「おい待て。それじゃ生活できないだろ。」

A「そうなんです。だから新しい人が来ても、1ヶ月とかですぐに辞めちゃいます。長くやってる人はノイローゼになって辞めていきます。実家で仕事してる人は比較的、なんとかなってる人もいます。だれかに辞められると僕が人を探すんです。その間、どんどんスケジュールが遅れて行く。仕事も増えるし、僕が動画描いて穴埋めした事もあります。一応、描く方の勉強もしてたんで。動画さんは気の毒ですよ。僕の嘘で働かされて、10万円も貰えないなんて。僕なんかはまだ恵まれている方です。残業が多いくらいは平気なんで。でも何が嫌かって、嘘をつかなくちゃいけない事…」

 

彼は顔を曇らせうつむいた。オイラには限界が来ているように見えた。なんて業界だ。20代半ばにして、既に夢も希望も失ってる。いや、久しぶりに話してみてわかったが、彼には、明らかに躁鬱の兆候が見えた。アニメってのは、夢を売る仕事じゃなかったのか?オイラは彼に尋ねてみた。

俺「…もう辞めたいんじゃないのか?」

A「…そうなんです。実はゲーム業界の友達から誘いがあって、今の倍の給料で、ゲームの制作進行を、やらないかって言われてます」

俺「お。凄いじゃないか。いつから?」

A「まだ決めてないです。今期の作品が人気出てて、2期目が決まったんです。とりあえず今のが終わらないと動けないです」

俺「おいおい。給料倍なんだから、辞めてそっち行っちゃえよ」

A「無理ですよ。僕がいなきゃ12話が放送に間に合わなくなって穴を開けちゃいますよ」

俺「いいじゃん。穴開けちまえよ。」

A「無理ですって。責任あるし」

 

いよいよオイラもたまらずに声を荒げてしまった。

俺「いいんだよ!責任負うだけの給料貰ってないんだから。責任ってのはタダじゃねぇんだよ。コンビニ以下の給料で作品の責任取らすなよ。アニメ業界は市場規模2兆円って聞いたぞ。オレの業界はその1/10もないのに、新人でももっと貰ってるぞ。なんだよそのふざけた業界は?このままだと、お前は必ず身体を壊すぞ。身体じゃなければ心が病む。給料倍額出るなら、明日にでもそっちに行けよ。残って欲しかったら、今までの残業代と、それ以上の条件出せって言ってやれ。「代わりならいくらでもいる」って言われたら「それなら心置きなく辞めれます」って言ってやれよ。すぐに辞めて、倍の給料貰いなさい。自分の幸せの為だ。それを止める権利は誰にもない。飛ぶ鳥跡を濁さずってのは、待遇が良かった会社にする事だ。今のおまえのその仕事に、そんな義理はない。目の前にあるチャンスを掴まないヤツはバカだ!」

「そ…そうですよね。ありがとうございます。ちょっと考えます。でも…僕、アニメが好きなんですよね…」

 

アニメが好き…それだけで自分の身体をここまで追い込めるのか…。なんて酷い業界なんだ。オイラは心底ムカついて気分が悪くなった。酒がまずい…。彼にはくれぐれも自分の幸せを第一に考えろと忠告し、彼のプライバシーを守る約束で、今日の話をネットに書く許可を貰った。

 

翌日、ツイッターでその事を連投したら、3万RTを超える反響があった。

 

コレが全ての始まりだった。